
その駅での貨物扱いが終了して、すでに何年も経過していた。
栄華を誇った側線も荷役線も引き剥がされ、巨大なホッパーやベルトコンベアも姿を消した。
かつてこの駅から、大車輪で鉱物を出荷したのだ・・・・と、歴史の1ページになって久しいのだ。
賑わっていた頃を知っている身にすれば、信じられないと言葉を漏らすのも仕方が無い。
ただ……
「あれです」
「・・・・全然知らなかった」
JRの機関車が直接積み込みの入換をやっていたこの駅にスイッチャーがいるという。
いや、正確には『いた』だろう。いまは片隅の倉庫の中に居るのだとか。
「信じられない」
ボソリと呟いて隙間から目をこらした。
薄暗がりの中に『彼』はいた。
その姿に私は、墓の中で眠る仏さんをイメージしていた。

何とか撮れないか・・・・
入り口扉の僅かな隙間からカメラをねじ込んだ。
ただ、暗すぎる上に倉庫が小さすぎるのだ。
全体像を見るには余裕がなさ過ぎた。
だが、エンドビームの印象的なトラ塗りは見える。
幾多の貨車を捌いた連結器には錆が浮いている。
所在なげなエアホースは、だらりと下がったままだ。
むくろ
そんな事を思った。
ここで誰にも気付かれず、ただただジッと錆びて腐って崩れていくのを待つ。
土に還る日を夢見て、ただ、静かに。
ジッと。
ジッと。

本線を飛ばす機関車では無い。
風を切って走る姿は無い。
駅の片隅で黙々と働くのが宿命の機械だ。
きっとこのまま静かに消えていくのだろう。
ただね。そんな裏方に注目を集めさせてやりたい。
それがこのカテゴリーの意図なんだと。
「ストロボ焚いたらどうですか?」
「それいいね」
ポップアップの小さなモノだが、あると無いとでは大違いだ。
外付けのストロボでは、この隙間を通せない。
ストロボ内蔵を毛嫌いする人は多いが、無いよりある方が良いのは言うまでも無い。
ボンネットの上にちょこんと乗る一つ目のヘットライトが印象的だ。
逞しいラジエーターも実に凛々しい。
壁に掛かる運行前点検や運転心得を唱和することは、もう二度と無いかもしれない。
それを思えば、あれらはこの仏の副葬品かもしれないと思った。

足回りはロッド式の様だ。
2軸でブレーキは両抱き式と思われる。
エアタンクの容量から見て、結構大きなコンプレッサーを摘んでいるのかもしれない。
かつてはどこにでも居た、よくある形態の10トン機っぽい。
国鉄時代の側線や専用線は、荷役の入換が別料金だったという。
故に荷主はその責任で入換機を用意した。
出荷先から帰ってきた私有貨車を受け取り、荷を積んで送り出す為にだ。
この駅から荷を出荷することは、もう二度と無いだろう。
終の棲家に繋がっていたレールは、断ち切られて久しいようだ。
草むらに沈む細いレールは、37kgよりも細いかもしれない。
きっと誰にも知られずに、忘れ去られていくのだろう。
ここのオーナーだった人の記憶の中で、颯爽と走る姿を残したまま。
先代のオーナーが忘れ形見にとっておいて、そのまま死去した後でスクラップ化。
そんな話は掃いて捨てる程ある。出来るモノなら、あの北陸高岡のスイッチャーの楽園へ。
動態保存前提で引き取ってくれたりしないだろうか・・・・
そんな妄想をしたのですが、無理でしょうねぇ・・・・

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